『真摯に生きる』
「60歳からが人生の本番」———著者が40代後半に長唄三味線を習っていたとき、師匠は70代後半、他の生徒は主に60代だった。みなそれぞれの人生を謳歌し、「三味線の世界は60歳からが本番。40代のあなたはひよっこ」と何度も言われた。著者の母も49歳で娘2人を嫁がせると、50代でダンスを習って講師免許を取り、60歳から10年間はダンスの指導をしていた。そのときが「母の人生で一番花開いたとき」と著者は考える。
人生の本番まであと数年。著者は自身の半生を紐解いてゆく。
第一部は、仕事について。著者は、結婚してから外で働いたことがなかった。家庭の仕事、三人の子育て、親の介護などを懸命に行ないながら生きてきた。しかし、50歳を過ぎて夫の会社で仕事をはじめ、水を得た魚のように活躍する。2006(平成18)年から人事制度を変革し、2007(平成19)年に「資産家のための相続専門の税理士法人」というイメージを世間に認知させるため「グレードアッププロジェクト」を立ち上げた。同時に新しい人事制度をスタートさせ、2008(平成20)年から「レガシィ」と社名変更し、2009(平成21)年、事務所を大手町に引っ越し、会計税務部門、資産税部門を統合、2011年からチーム制を採用するなど、さまざまなアクションを起こした。結果として、会社の売上げに大きく貢献し、2011年には会社史上最高の売上げを記録した。ビジネスの世界に足を踏み入れ、著者の人生は大きく変わった。
第二部は、生まれてから出社までの半生について。子どもの頃の著者は、人形遊びが好きだった。自宅に人形が15体くらいあったが、その1つ1つにキャラクターを決め、学校ごっこをした。著者が先生、人形が生徒だが、生徒の立場にもなり、人形にセリフを言わせ、一人で何役もこなした。人形はキャラクターによって、勉強ができる子、優しい子、ユニークな子もいた。じつは、このとき人形を相手にさまざまなイメージを膨らませたこと、人間にはいろいろなタイプがいることを認識し、とりわけ長所に注目して認めていたことが、のちの会社の組織づくり・人事マネジメントに役立っているのではないかと、著者は考える。
大学時代には、ボランティアサークル「クラブ・エトセトラ」で活動した。人数の少ない同期だけではイベントをまわすことはできない。そのとき著者は「みんなのモチベーションを上げよう」「自分も楽しんで、みんなも楽しませよう」と考えていた。楽しみながらチームがまとまり、モチベーションもアップする……現在、組織のモチベベーションをテーマに仕事をしているが、この頃の自分が原点になっていると気づく。
こうした振り返りを経て、第三部では、自分の生き方についてまとめ、人生を楽しむには、「真の趣味」をもつべきと結論づける。「真の趣味」とは、著者の定義では、一人で何時間でも没頭し、深めていけるもの。世間に認められなくてもかまわない。60歳からの人生の本番は、「真の趣味」を見つけて人生を楽しむときである。
執筆を通じて自分の生き方を振り返ると、自分という人間について漠然と抱いていた印象、自分がこれまで何をどう考え、これからどうしたいと思っているのかなどが、1つ1つ明確になり、過去のさまざまな出会いや体験が、いまの自分に反映されていることがわかった。著者は、「私はとても真摯に生きてきたな」と自分を認めることができたという。